無著像(むちゃくぞう)(右)と世親像(せしんぞう)(左) 無著はインドのガンダーラに生まれた仏教学者で,世親はその弟です。運慶(うんけい)は写実的でありながら,その内面まで表現されたこの彫像を,円熟期(えんじゅくき)の60歳ころつくりました。

 奈良の興福寺(こうふくじ)北円堂(ほくえんどう)には,無著(むちゃく)世親(せしん)というインドの高僧(こうそう)の兄弟の立像(りつぞう)安置(あんち)されています。運慶(うんけい)の60歳ころの作品で,1208年から1212年にかけて製作されたと伝えられています。(かつら)を材料とし,色が()られていますが,実際の彫刻(ちょうこく)は運慶の息子(むすこ)運賀(うんが)が担当し,最後の仕上げを運慶が行なったといわれています。

 無著のはるか遠くを見つめているような(おだ)やかな眼差(まなざ)しや,全体を(つつ)()いの表現は,この高僧が目の前に実際に立っているような感じさえ与えます。また,(ひたい)(まゆ)をよせ,(きび)しい目をした世親からは,仏教の研究に打ち込んだ強い意志とともに,人々の(まよ)いを救おうとする慈悲(じひ)深さが感じられます。


無著(むちゃく)世親(せしん)

 4世紀,インドに生まれた仏教学者の兄弟(兄無著 310年?〜390年?,弟世親 320年?〜400年?)です。一切(いっさい)の事物は実在しておらず,識別(しきべつ)する心のはたらき(識)の所産であるという唯識(ゆいしき)の思想を形成しました。